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ロシア国立チャイコフスキー記念ペルミ・バレエ 『ファデッタ(二幕四場のバレエ)』 2009年11月20日

2009年11月20日

音楽:L・ドリーブ 
脚本:L・ラブロフスキー、V・ソロビヨフ(J・サンドの小説「愛の妖精-Le Petite Fadetta」をもとに)
振付・演出:N・ボヤルチコフ(1936年のラブロフスキー版を部分的に使用) 
美術:V・オークネフ

出演
アンドレ:I・ミハリョフ 
マドロン:N・マキナ 
レネ:G・スタリコフ 
ファデッタ:I・ビラシュ

 この作品は、前日の11月19日がペルミでの初公開でした。冗談好きで謙虚な振付家のボヤルチコフいわく「僕は何もしてないよ」とのことですが、実際に出来上がった作品のうちラブロフスキーの振付は二曲にとどまっています。第二ヒロイン・マドロンのヴァリエーションと子供たちの踊りです。他はボヤルチコフの手による創作です。ときどき「リーズの結婚」を思い出させる田園調のやさしいクラシック・バレエで、ところどころのコミカルな踊りが楽しいとてもかわいらしい作品に仕上がりました。

 少女ファデッタは小さい弟とおばあさんのウルスラと共に、人里離れた森の中に住んでいます。薬草などを集めて暮らす彼女たちは、村の住人から魔女じゃないかという疑いの目を向けられ疎まれる存在です。ある日、村の若者たちが森に遊びに来ます。青年レネは裕福な家の娘マドロンの気を引こうと、ウルスラをてひどいやり方でからかい始めます。そこへ割ってはいる若者アンドレとファデッタ。二人の間に友情が芽生えます。アンドレは親の言いつけでマドロンと結婚することになっていますが、次第に募るファデッタへの気持ちをあきらめられません。最後は親と村人全員を敵にまわしながらもファデッタへの愛を誓います。
 最初は村人たちの冷たい態度に反発して野性児のように暴れるファデッタ。アンドレの優しさにふれてだんだんと素直になり、恋にも目覚めていきます。キラキラした大きな目としなやかな肢体の可憐なビラシュが、くるくると変化していく少女の心理をとても自然に演じました。アンドレ役のミハリョフは、もうその笑顔だけで観客をとりこにしてしまうというとても魅力的なダンサーです。ペルミの小さな舞台が残念に思われるくらいのびのある気持ちのいい跳躍をします。他二人のすばらしいソリストを始め、コールドバレエもきちんとそろっていて、今のペルミ・バレエは首都の劇場と比べてもとても高いレベルにあるのではないかと思いました。
 
 ボヤルチコフの振付も、純粋なクラシック・バレエながら機知に富んで観客を飽きさせません。村人たちの踊りでは、およそ8組のペアがしゃがんだ姿勢の女性を頭上高くリフトしたまますばやく移動したり、リボンを効果的に使ったり、フォーメーションの変化が豊富です。アンドレとマドロン婚約の際に現れる、三人の候補者のうち二人は完全に「リーズの結婚」のアランのコピー、双子のアランという感じでした。背の低いその二人と、ひょろっと背の高い間抜けな三人目でドタバタを繰り広げます。ユーモラスなものを振りつけるのがうまいボヤルチコフの力が発揮されました。物語の最後はスローモーションで登場人物それぞれのドラマを見せます。中心になっているのがファデッタとアンドレ、それに彼の父親です。アンドレの手からファデッタを乱暴に引き離す父親。彼女を守ろうとそれを遮るアンドレ。怒り狂った父親がファデッタを押し倒して杖で打とうとする。立ちはだかるアンドレ。最終的には村人全員の怒号の中、二人は村を捨てて去っていきます。スローモーションですから当然ダンサーはゆっくり動いているのですが、とても密につくられたパントマイムで、強い緊迫感があります。

 主人公たちが去っていく…といういささか面食らう終わりではあるのですが、しっかりしたドラマ構成で、踊りもたくさん、ダンサーの見せ場もふんだんにあって、きっとレパートリーに長く残るバレエだと思います。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

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