他の記事を探す

マリインスキー劇場 『バレエソリストたちのガラ・コンサート』 2009年11月17日

2009年11月17日

指揮-ミハイル・アグレスト

  今回のガラ・コンサートもバラエティに富んだ内容で、マリインスキー劇場のレパートリーの充実を証明する舞台になりました。最近復活公演があったばかりのスコットランド・シンフォニーを始め、パ・ド・カトルや海賊などのクラシック、ソ連時代の作品に、ラトマンスキーのシンデレラなど現代のものまで時代的に幅広い作品選択です。

<第一部>
スコットランド・シンフォニー
音楽:F・メンデルスゾーン 振付:J・バランシン
出演:A・マトビエンコ、A・セルゲーエフ、V・マルティニュク、他
  ロパートキナが出演した復活公演初日(10月30日)よりも作品の良さが発揮されたかもしれません。この日は全体にアップ・テンポではつらつとした感じがありました。
  作品は、ラ・シルフィードにインスピレーションを得たのでしょう。男性陣はスコットランドの民族衣装風でチェックのスカートに濃い色の上着、女性陣はシルフィードのようなロマンティック・チュチュ、でも羽なしで色もはっきりそれとわかるピンクです。それから女性の第二ソリストは男性のようなチェックのスカートに濃い色の上着です。男性の恰好をした女性のことをトラベスチといって19世紀に流行りました。
  ヒーローがヒロインに恋をして、でもまわりの男性陣がそれを阻んで…というような内容です。衣装のせいか下世話さはなく、男性陣もヒロインを守る精霊かなにかのように見えます。振付には、胸の前で腕を組んでみたり、地面をリズミカルに踏んだりとスコットランドの民族舞踊的雰囲気の動きが取り入れられています。ちょっとおもしろいなと思ってしまったのが、女性ソリストを男性陣が囲んで、男性ソリストが近づけないようにするところなんですが、男性ソリストがどうにかして近づこうと様子を見るように舞台下手から上手に移動します。そのとき男性陣と女性ソリストが全員で男性ソリストのことを目で追うのです。つまり顔の向きが一斉に変わるわけで、なんとなく笑ってしまいたくなる瞬間でした。

<第二部>
パ・ド・カトル
音楽:C・プーニ 振付:A・ドーリン(ペロー版をもとに)
出演
タリオーニ:D・パヴレンコ  グリジ:Y・セーリナ チェリート:M・ドゥムチェンコ  グラン:M・シリンキナ
若いシリンキナが丁寧に踊っていました。

「シンデレラ」よりアダジオ
音楽:S・プロコフィエフ 振付:A・ラトマンスキー
出演:I・ゴルプ、M・ロブーヒン

「白鳥の湖」よりパ・ドゥ・ドゥ
音楽:P・チャイコフスキー 振付:M・プティパ
出演:S・グメロワ、D・コルスンツェフ
背も高くスタイルのいいコルスンツェフの王子は、正統派という感じで安心できます。

「シェヘラザード」よりアダジオ
音楽:N・リムスキー=コルサコフ 振付:M・フォーキン
出演:E・コンダウーロワ、E・イワンチェンコ
普段は無表情のイワンチェンコが粗野な(魅力とまでは言い切れないのですが)感じで少し驚きました。コンダウーロワは怪しい美しさで観客をとりこにしました。

「春の水」
音楽:S・ラフマニノフ 振付:A・メッセレル
出演:T・エフセーエワ、Y・スメカロフ
女性を空中に放りあげてすんでのところで受け止めたりと、とてもアクロバティックな踊りです。ラフマニノフの清冽な音楽がはっとするような新鮮な美しさをたたえています。

グラン・パ・クラシック
音楽:D・オーベル 振付:V・グゾフスキー
出演:A・ソーモワ、M・ジュージン
ジュージンがとても丁寧に踊っていましたが、決めるべきところでなんとなく小さくまとまってしまったりと謙虚な感じが相手役のソーモワと対照的で興味深かったです。

<第三部>
「ジゼル」よりパ・ドゥ・ドゥ
音楽:A・アダン 振付:M・プティパ
出演:A・コレゴワ、A・コルサコフ
コルサコフをそういえばここ最近見ていなかったな、と思ったら今日は凄みさえ感じさせる迫力のある踊りぶりでした。感情表現がどうのというよりも踊ること自体に異常な集中を見せ、完璧なまでのできに踊りの美しさが際立ちました。

「ロマンス」
音楽;G・スヴィリドフ 振付:D・ブリャンツェフ
出演:Y・セリナ、M・ロブーヒン
ソヴィエト時代の珠玉の名作です。戦争に行った恋人について回想する女性の物語です。5分程度(おそらく)の間に激しく揺れ動く感情が、命のほとばしりが凝縮されています。セリナは技術的なことが先行して演技はまだ研究中という感じでした。

「スパルタクス」よりアダジオ
音楽:A・ハチャトゥリアン 振付:L・ヤコブソン
出演:D・パヴレンコ、I・クズネツォフ
来年全幕復活公演が予定されているヤコブソンのスパルタクスからアダジオです。クラッススとの戦いに挑むスパルタクスと、フリギアの別れのシーンです。一曲だけ抜いて踊るという不利を考慮したうえでもなんとなくちょっと足りないような気がしました。パヴレンコのフリギアは、スパルタクスを見つけると喜びでいっぱいになって走り寄ったのですが、全体の悲劇的な状況から考えて、もっと重みをもたせてもいいのではないかなと思いました。

「マルキタントカ」からパ・ドゥ・シス
音楽:C・プーニ 振付:A・サン=レオン
出演:E・エフセーエワ、F・スチョーピン、他
元気な明るい踊りで観客を沸かせました。エフセーエワもスチョーピンも超絶技巧で盛り上げました。

「ロシアの踊り」
音楽:P・チャイコフスキー 振付:K・ゴレイゾフスキー
出演:U・ロパートキナ

「海賊」よりパ・ドゥ・ドゥ
音楽:A・アダン 振付:M・プティパ
出演:V・テリョーシキナ、V・シクリャーロフ
 コンサートのしめくくりに最適の人選でした。テリョーシキナはいつ見ても技術的に非常高度でしかも安定していて、まさに優等生です。シクリャーロフは張り切りすぎて一瞬タイミングが合わず飛びきれなかったところもありましたがそれはご愛嬌。テリョーシキナは今回のフェッテを1回転-1-2回転-2-2という組み合わせで回っていました。回れることがバレエの真髄ではないけれど、今回は特にガラですし、次はどんなフェッテが開発されるかとちょっと楽しみですね。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

ロシアのパフォーミング・アーツ エンターテイメントのページ はこちらです。