他の記事を探す

2008・6・13 「バヤデルカ」  モスクワ・ボリショイ劇場

2008年6月13日

ニキヤ…ナヂェージュダ・グラチョーワ

ソロル…ニコライ・ツィスカリーゼ

ガムザッティ…マリヤ・アレクサンドロワ

  グラチョーワは今シーズンだけでも、もう3回以上はこのニキヤを踊っているでしょう。しかし、彼女のニキヤは何度見ても素晴らしい、と言わずにはいられません。この日も全幕を通して本当に素晴らしかったです。
  特に2幕の結婚式の場面での踊りは哀愁漂う艶っぽい踊りが、切なく、息をのむほど美しかったです。ニキヤが走り出て、一歩足を前に出しただけで空気が変わりました。ニキヤが踊っている間だけ、違う空間にいる錯覚すら覚えました。花籠を上に掲げてフィニッシュ。つかの間の静寂の後、会場がワッと沸き、拍手とブラボーの嵐。ずっと拍手なりやまず…オーケストラの音を掻き消してしまうほどでした。次の場面に進めず、ヘビに噛まれるシーンを図るのが難しそうでした。(それによって花の香りを嗅ぐ仕草ができなかったのは、ちょっと残念。)
  3幕にはどうしても疲れが見えて少し崩れ所はあるのですが、それでも踊りは誰よりも美しく繊細で、さすがはグラチョーワと思わされました。


  ソロルもお馴染みツィスカリーゼ。久しぶりに彼が踊っているのを観ましたが、やや身体が重い印象。相変わらずしなやかな動きは綺麗なのですが、キレが今一つ。2幕の結婚式のバリエーションが特に調子が良くなさそうで、一歩目でバランスを崩し足が縺れるような感じになってしまい、全体的にいつものツィスカリーゼらしくなかったです。オーケストラのテンポが、それまでゆったりだったのにバリエーションに入った途端に急ぎ足になったせいもあるでしょう。その直後のガムザッティのバリエーションの時もオーケストラは超特急で、アレクサンドロワも踊りづらそうでした。
 この日新鮮だった演出は、ニキヤがヘビに噛まれてとっさに駆け寄って行った事。(いつもは柱の影で呆気に取られて佇んでいる)いつもよりも愛情がより見えて良かったです。3幕は踊りが少し良くなっていました。

 
 アレクサンドロワもいつも通り貫禄あるガムザッティーで、踊りもほぼ安定していました。しかし上でも述べた様に、結婚式のバリエーションでフェッテをはじめる時にオーケストラとテンポが合わず、足が迷ってしまう形になっていたのが、ちょっと残念。他にも踊りに躊躇や粗が所々見られて、少し首を傾げてしまう事もありました。
  良かったのは、ニキヤと争うシーン。このシーンはグリゴローヴィッチ版ならではのジャンプを揃えてくる所が見所なのですが、2人がクロスして反対側に抜ける時も、ニキヤがガムザッティーを追いかける時も、ぴったりと合っていて綺麗でした。ガムザッティーの落としたベールが踊りを妨げていてヒヤリとしましたが、うまくいって良かったです。
 
  この日は舞台が始まってすぐの1幕目、皆踊りが恐々とした感じで、観ている方も冷や汗もの…何故か観ているだけなのに、緊張しました。後で聞いたところによると、床を新調したばかりだったそう。新しい床は滑りやすいのでしょう。しかし徐々に踊りもぎこちなさが取れ、2幕目は主役陣からコールドまで全体的に良かったです。
  黄金の像はイワン・ワシーリエフ。いつもスピードやテクニック重視の踊りが気になるのですが、この日は止まるところはピタッと意識して止まっていて踊りにメリハリがありました。しかし祝宴の人たちが最後踊り交わってフィナーレに幕へ引っ込む時のジャンプが、テンポも合っていなければ十分に跳べていなくて、そこが惜しいところです。
  マヌー(壷を持って踊る女性)はアンナ・レベツカヤ。エキゾチックだけど、どこかさらりとした雰囲気の踊りが好印象。太鼓の踊りの一陣については…とりあえず一言、盛り上がったとだけ言っておきましょう。マゲダベヤのアントン・サヴィーチェフは、よくこの役を踊るだけに踊りが馴染んでいる印象で、かつ日によって演技に変化が見られるのが面白いです。この日は出だしに身体が少し重そうでしたが、力みがなくて良かったです。

  3幕の影の王国。コールドバレエは、ポーズをキープできる人、できない人がバラバラで、停止する時には乱れがちらほら見られましたが、動いている分にはまあまあ綺麗でした。バリエーションは、第1がエレーナ・アンドリエンコ、第2がエカチェリーナ・シプリナ、第3がアンナ・ニクーリナ。迫力と存在感ではシプリナがトップですが、踊りの滑らかさではアンドリエンコに分があります。ニクーリナは残念ながら他の2人のインパクトが強すぎて、ちょっと影が薄かったです。 

ロシアのパフォーミング・アーツ エンターテイメントのページはこちらです。