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2008・5・16 「ガラ・コンサート~スヴェトラーナ・アディルハーエワ祝賀~」  モスクワ・ボリショイ劇場

2008年5月16日

 ボリショイ劇場のスヴェトラーナ・アディルハーエワの先生の誕生日祝賀ガラ・コンサートという事で、出演者は彼女の教え子にあたるダンサーたちによる公演でした。また、マリインスキー劇場からウリヤーナ・ロパートキナとイワン・コズロフが客演に来ていました。コンサートは三部に分かれており、一部は「白鳥と湖」より第3場、二部は「スパルタクス」より第2幕、三部はコンサート形式、という構成。それぞれに見所がたっぷりの充実した公演でした。
                                       
第一部 「白鳥の湖」より第3場

オデット/オディール …アンナ・アントニーチェワ
王子 …ドミートリー・グダーノフ   
悪の天才 …ニコライ・ツィスカリーゼ 

 誰よりも異色を放ち、強烈な印象を残していったのはツィスカリーゼをおいて他はないでしょう。そもそも役の存在もメイクも濃いのですが、加えて彼の濃いオーラが…“彼が踊った後に残り香がありそう”といった感じです。気合もたっぷり、鮮やかな回転で会場を沸かせてくれましたが、少々お疲れの様子。最近身体を絞ったのでしょうか、先月見た時より身体はもちろん、随分とすっきりとした顔をしていました。
 オディールのアントニーチェワ、彼女も魅せてくれました。踊りも調子が良さそうで、フェッテも最後までがんばっていました。華やかさと小悪魔っぽさを併せ持つ、表情の変化も良かったです。オディールの雰囲気が出ていたと思います。
 グダーノフは彼ら(特に悪の天才)に押され気味感がありました。登場もさり気なさ過ぎてもうちょっとアピールして欲しかったけれど、仕方がないのかもしれません。踊り自体はまあまあでしたが、リフトやサポートはハラハラさせられる事が何度かありました。
 花嫁たちの配役は、ハンガリー(ユーリヤ・グレベンシュコーワ)、ロシア(タマーラ・アバケリア)、スペイン(タチヤーナ・ラザレーワ)、ナポリ(オリガ・ステブレツォーワ)、ポーランド(アンナ・レオーノワ)でした。…まだまだ甘さが見える花嫁たちで、ただ一人レオーノワだけ安心して観る事ができました(迫力があり過ぎでしたが)。道化は岩田守弘さんでした。少し真面目すぎるかな~とも思いますが、そこが彼らしいのかもしれません。きっちりと踊るところはさすがです。


 第二部 「スパルタクス」より第2幕

スパルタクス …ドミートリー・ベラガロフツェフ
クラッスス …アレクサンドル・ヴォルチコフ
フリーギヤ …アンナ・アントニーチェワ
エギナ …エカテリーナ・クリサーノワ

 男性陣が大活躍の勇ましいバレエで、一部とは趣がからりと変わります。ベラガロフツェフはこのスパルタクという役が似合っていて、勇ましい雰囲気が良かったです。踊りはまずまずの調子だったと思いますが、この日に限らずこの最近はキレが今ひとつで物足りなさを感じます。一方クラッススのヴォルチコフですが、とても生き生きとした踊りでこの二部では特に印象に残っています。エギナを軽々とリフトする姿は、余裕すら感じられて逞しかったです。
 クリサーノワは、今の段階ではエギナという役に合っていないのだろうというのが第一印象です。色気が感じられませんでした。細すぎる体型のせいもあるのでしょうけれど。フリーギヤはちらっと出てきただけなのであまり書けることはありませんが…アントニーチェワ、綺麗でした。
 ついでに…他にはイワン・ワシーリエフ、ルスラン・プローニン、デニス・メドヴェーヂェフの3人を筆頭に、農民たちが元気に踊っていました。農民、女性陣のほうはアレーシヤ・ボイコ、スヴェトラーナ・グネドーワ、クセーニヤ・ケルン、ユーリヤ・ルンキナ、アナスターシヤ・スタシュケヴィッチが最初にちらっと出てきて、あっという間に去っていきました。このような迫力のあるバレエはやはり盛り上がりますね。それぞれ主要の役の踊りはもちろん、群舞も格好良いです。


第三部

 合間にアディルハーエワのバイオグラフィーを追っていく映像を流すという演出を織り交ぜた、コンサート形式…という説明で様子は伝わるでしょうか。目玉はロパートキナとコズロフの「愛の伝説」とメルクリエフとクリサーノワらによる「ドン・キホーテ」。
                      
「くるみ割り人形」よりパ・ドゥ・ドゥ(振付:ワイノネン)
 アナスターシヤ・スタシュケヴィッチ、ヴャチスラフ・ロパーチン
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元気の良い女の子を頑張って支える男の子、といった感じのカップルでした。スタシュケヴィッチはテクニックという面では巧いと思うのですが、荒っぽさが目立ちます。相手のロパーチンがなめらかで流れるような踊りなので、余計に目立ちます。あともう少し丁寧さが欲しいところです。
「狩人と鳥」よりデュエット(振付:ヤコブソン)
エカテリーナ・クリサーノワ、パヴェル・ドミトリチェンコ
   ↓
 元気が良くてピチピチとした小鳥を追いかける不審な狩人…正直な所あまり印象に残っていないのですが、悪くもなかったかなと思います。
                                
「石の花」より鉱山の女王とダニーラのアダージョ(振付:グリゴローヴィッチ)
アンナ・アントニーチェワ、ドミートリー・ベラガロフツェフ
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なかなか息の合った二人で、引き込まれました。アントニーチェワ、白鳥の時や他の公演でも感じたのですが、最近調子良さそうです。
                                
「眠れる森の美女」よりフローリナ王女と青い鳥のパ・ドゥ・ドゥ(振付:プティパ)
オリガ・ステブレツォーワ、アンドレイ・バローチン
   ↓
 元気に飛び回る青い鳥と穏やかな雰囲気のフローリナ王女。ステブレツォーワは踊りも雰囲気もおっとりとした感じで、ちょっとフローリナ王女としては落ち着き過ぎのような気がしました。バローチンは跳躍が軽やかで綺麗でした。
                              
「愛の伝説」よりメヌフネ・バヌーのモノローグとメヌフネ・バヌーとフェルハダのアダージョ
(振付:グリゴローヴィッチ)
ウリヤーナ・ロパートキナ(マリインスキー劇場)、
イワン・コズロフ(マリインスキー劇場)
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 ロパートキナは思ったより印象が薄かったのが残念。しかし、それでもやっぱり綺麗です。ボリショイのダンサーとは違う美しさがありますね。コズロフはもう少し身体を絞ってほしいところ。彼のせいではないのですが、コズロフの衣装がひどすぎます。鮮やかな空色の全身タイツ+ショッキングピンクの小さいマント…極めつけが頭の上の両耳の上に生えている羽。一言で言い表すなら、“アニメ戦士”。集中して踊りを見たいのに、この衣装が気になって台無しでした。

「ドン・キホーテ」より場面抜粋(振付:プティパ、ゴルスキー)

キトリ …エカテリーナ・クリサーノワ
バジル …アンドレイ・メルクリエフ
町の踊り子 …アンナ・レオーノワ
エスパーダ …アルチョム・シュピレフスキー
第1ヴァリエーション …クセーニヤ・ソローキナ
第2ヴァリエーション …アンナ・タタローワ
   ↓
 キトリ&バジルはとても仲が良いカップルで、始終笑顔でした。クリサーノワはこの日3度目の出番ですが、中でも特に気合が感じられました。キトリにしてはちょっと幼い感じがしたものの、元気があって良かったです。衣装が朱紅一色だったので、黒が入っているともう少し大人っぽさが出るだろうなと思いました。色自体は似合っていました。メルクリエフは踊ってもキマっているし、サポートをしても安定感があるし、好印象です。レオーノワは、彼女独自オーラと余裕の表情で踊っていました。対するシュピレフスキー。全幕でこのエスパーダを踊っているのを見た時に、あまりにもギクシャクとしていたので心配だったのですが、思ったよりも割と良くなっていました。上背もあるのでなかなか様になっていたと思います。ヴァリエーションの2人は…あまり良くなかったです。


「小さい馬乗り名人」

 北オセチヤ・アラニヤ共和国民族舞踊アンサンブル
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 少年たちによるアンサンブルでした。子どもとはいえ侮れません。レベルの高さは相当のものです。アクロバティックな踊りはかなりの迫力で見応えがありました。中には10歳にも満たないような小さな男の子もいましたが、大人顔負けの堂々たる舞踊に拍手喝采です。とても良かったけれど公演がかなり長かったので、このアンサンブルを見る頃にはお腹いっぱいでした。また別の機会にこれだけを観てみたいです。ところでこの演目が何故あったのか不思議に思っていると、後ほどわかりました。アディルハーエワがこの北オセチヤ・アラニヤ共和国の出身だそうです。
開演19時、終演23時半頃の長い公演でした。これだけ長いと終わる頃にはグッタリですが、一度に色んなダンサーの踊りを観られるのはガラ・コンサートの醍醐味ですね。 


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