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すべての劇場を愛する人々へ:劇場博物館のレポート  2009年12月19日

2009年12月19日

すべての劇場を愛する人々へ

ガイドブックにも載っているのではないかと思うのですが、特にお勧めの劇場博物館三件をレポートします。


アレクサンドリンスキー劇場内博物館 (ドラマ劇場)
オストロフスキー広場6番(メトロ:ガスチーヌィ・ドゥボール)


 展示品を保護するために一日に約2時間しか開けないというちょっとレアな博物館です。お客さんはまずその日の劇のチケットを買って、劇が始まる前と休憩時間にのみ観覧することができます。ちなみに博物館観覧料は観劇料とは別で、50ルーブル(2009年12月現在)かかります。とても内容が充実しているので早めに来て見ることをお勧めします。
 2006年にリニューアルオープンされたばかりの劇場は建物自体も一見の価値がありますが、その際にいろいろなところで眠っていた衣装や舞台装飾なども発掘されて、今では素晴らしい展示を形成しています。
 250年以上の歴史を誇るこの劇場では、今もその痕跡を感じさせる部分がたくさん残されています。たとえば展示ルームの床は、地方から運ばれてきた特別に硬い石でできており、その上をプーシキンらが歩いていたそうです。
 展示されている衣装は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍した伝説的な俳優たち、サービナ、ワルラーモフ、ユーリエフ、ダヴィドフらが実際に着用していたものを含みます。2006年のオープン前までは舞台で常に使用されていたとか。
 歴史ものを上演するときの杯や剣などは、革命前だと皇室からじきじきに借りることもよくあったそうで、博物館では舞台用に作られた模造品と並んでひそかにそれらの本物が展示されています。
 発掘の際の一つのおもしろいエピソードなんですが、ある日、劇場の歴史研究者がクローク係のおばあさんと話していたら、おばあさんがなんだか見たことあるような椅子に座っているのに気付きました。不思議に思って芝居のカタログを見ていたら、なんと1917年の「マスカレード」(メイエルホリド演出)で使用されていた椅子だったことが判明したのです。すぐに椅子は取り上げられ、きちんと修復され今ではガラスケースに収まっています。
 アレクサンドリンスキー劇場博物館では主に革命前の、皇室に保護されていた時代の贅沢で美しい衣装、装飾の数々をご覧になれます。


サンクト・ペテルブルグ劇場と音楽の博物館
オストロフスキー広場6番
(アレクサンドリンスキー劇場を正面にして左奥の黄色い建物です。
木の扉を入って正面のエレベーターで三階に上がります。)


 ペテルブルグの劇場の歴史全体が見渡せる展示となっています。オペラやバレエの展示も含まれています。
 五階のホールではひんぱんにミニコンサートが行われています。ロシアのロマンス、オペラのアリア、室内楽、または詩の朗読のこともあります。水曜(18:00)、土曜(17:00)と、まれに日曜昼(15:00時)には、ロシアやそのほかの国の、主にバレエやオペラの興味深い映像を公開しています。クラシックだけではなく最近舞台で上演された作品も公開されています。とにかく映像の所蔵量が膨大なので、貴重な作品にめぐり合うことも多いです。また、ベジャールのボレロを5人の異なる主役で見比べる、というような興味深い試みも行われました。
 ときには俳優やダンサーを招待してトークショーのようなことも開催されます。今まで私が覚えている中ではツィスカリーゼ(ボリショイ劇場)、テリョーシキナ(マリインスキー劇場)、シクリャーロフ(同劇場)らが訪れました。運がよければお気に入りの俳優、ダンサーを間近に見ることができるかもしれませんね。
ちなみに10月に行われたディアギレフ・フェスティバルのときに、自身のバレエ団と共にやってきたノイマイヤーが記者会見を行ったのもこのホールでした。
  ペテルブルグの文化の中心地のひとつをなす博物館です。


サモイロフ家記念博物館 (ドラマ・バレエ)
ストレミャーンナヤ・ウーリッツァ8番 (ネフスキーパレスホテル裏口右隣の扉入って二階)


 アレクサンドリンスキー劇場で19世紀に活躍したワシーリー・ワシ-リエヴィチ・サモイロフが所有していたアパートメントが、今は博物館になっています。サモイロフ家は多くの有名な俳優を輩出しており、展示場のうち二部屋は代々の俳優に関する資料が置かれています。
 ドラマ劇場を愛する人にはもちろん訪れていただきたいのですが、とにかくここはロシアクラシックバレエのファンにぜひともご覧になってほしい場所の一つです。サモイロフ家アパートメントの場所が少し空いているということで、上記の「サンクト・ペテルブルグ劇場と音楽の博物館」所有のバレエ・コレクションがここに相当数展示されています。全部で二部屋ともう一つ小さい部屋があります。クロークを境に展示室が分かれているので見落としがないように気を付けてください。
 ロシアバレエの輝かしい瞬間の記録がここに集まっています。写真や衣装などふんだんな資料が訪問客の想像力を刺激します。
 19世紀中ごろ、まだ外国からのゲストダンサーが主役を張っていた時代を代表するのはマリー・タリオーニ。彼女のトゥシューズ、復元されたシルフィードの衣装が飾られています。
プティパの時代からは有名な「白鳥の湖」、「眠りの森の美女」、「ファラオの娘」(ボリショイ劇場で復元されました)をはじめ、今では忘れ去られてしまった「ゾライヤ 」「真珠 」「帝の娘 」などの衣装やデザイン画が展示されています。ファンタスティックで豪華な衣装が目を喜ばせます。
 ディアギレフの「ルースキー・セゾン」からは、フォーキンが使用していた椅子や、パブロワの帽子入れ。衣装も一着。
ソ連時代になると衣装の雰囲気がガラっと変わります。節約型になったというか…。本当に簡素でびっくりするくらいです。セルゲーエフ版の眠りの森の美女やライモンダ等の衣装が飾られています。写真展示ではウラノワやコルパコワ、コムレバとソ連の傑出したアーティストたちが名を連ねます。亡命したダンサーたちについても資料があります。マカロワから寄贈されたジュリエットの衣装や写真、ヌレエフがバレエ学校時代に着た「くるみ割り人形」の衣装、バリシニコフ着用の衣装など。
それぞれの部屋自体はこじんまりしたものながら、ロシアクラシックバレエの歴史をおおまかに網羅できるすばらしい展示です。



サンクト・ペテルブルクからのひとこと日記

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