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2008・6・9 「明るい小川」  モスクワ・ボリショイ劇場

2008年6月9日


ジーナ…アナスタシヤ・ガリャーチェワ

ピョートル…アンドレイ・メルクーリエフ

バレリーナ…ナターリヤ・オシポワ

バレエダンサー…ヤン・ゴドフスキー

【あらすじ】(“バレエ辞典”のページより ソ連時代の集団農場コルホーズが舞台で、主役はそこで農業を学ぶピョ-トルと、その妻ジーナ。ジーナはかつてバレエを学んでおり、収穫祭のためにモスクワからやってきたダンサー、かつての同窓生と再会する。しかし夫ピョートルがそのダンサーに惹かれているので、複雑な気分だ。
彼女を励ますために、ダンサーとそのパートナーはある計画を立てる。仮面をかぶり、同じ衣装を着た二人のダンサーがピョートルの前に現れる。驚くピョ-トルだが、片方は愛妻ジーナの変装だった。2人は仲直りし、そして収穫祭は、成功に終わる。

  全体的にコメディータッチで、おもしろおかしく楽しめる作品です。見所は色々ありますが、特に有名なのは男性ダンサーがポアントを履いてチュチュを着て踊る場面でしょう。ここでいかにおかしみを醸し出せるかが重要です。この日はこの役をゴドフスキーが演じました。
  あまり大柄ではないダンサーで、案外すんなりとチュチュも似合ってしまっています。(笑)しかし、可愛らしかったのですが、あまり面白さはなかったです。綺麗にまとまり過ぎている印象。“男性が無理して女性らしくしている感じ”があまり出ていませんでした。踊りは綺麗でしたが…敢えてやり過ぎなくらいに大げさにやると良さそうです。

  その逆に男装をして踊るのがバレリーナ、オシポワ。水を得た魚の様に、元気に跳ね回っていました。男性ダンサー顔負けのジャンプ力で、改めて身体能力の高さを実感しました。が、しかし。あまりに勢いが強すぎてダンサーというよりはスポーツ選手という印象。やたらと高く速く跳べばいいというものではないのです。いつでも絶好調でタフな彼女ですが、勢いだけではなくもう少し丁寧さをプラスすれば良いダンサーになるのになあ、と思わずにはいられません。やんちゃなバレリーナでした。

  アコーディオン奏者、デニス・サーヴィン。この役は、格好付けつつ気持ち悪さを全身から醸し出して欲しいところ。しかし、彼はあくまでもノーマルにええ格好しいの兄ちゃんでした。あまりに踊りも表情も淡白だったので、期待していたこちらとしては拍子抜け。そんなわけで、水色に花柄のシャツの胡散臭さも今ひとつ生きていませんでした。
  ガーリャという少女はアンナ・チェスナコーワが演じました。小柄な黒髪の可憐な美少女タイプのダンサーで、ボリショイでは貴重なタイプかと。踊りはともかく、結構目を惹きます。(最近では「眠れる森の美女」の赤ずきんを踊っているのを見ましたが、よく似合っていました。) このガーリャの黄緑色の衣装は今ひとつ合ってない気もしましたが、仕草や表情、踊りが可愛らしかったです。
  別荘に避暑に来ているオバサンはイリーナ・ジブローワ。若作りをしているという設定で、無理矢理動かない身体で踊ろうとするのですが、お茶目でかつ上品な感じが良かったです。トラック運転手アンドレイ・バローチンは犬の着ぐるみの時、楽しそうでした…他にもたくさんいるのですが、このくらいで。

  そんな感じで周りがドタバタやっている中で大人しそうなジーナ。演じるガリャーチェワも大人しいイメージがあるので、この役は似合っていると思います。騒がしい様子に囲まれながらも、ゆったりとしているのが主役らしいです。この日はガリャーチェワ、踊りの調子も良さそうでした。ピルエットは軸足がぶれることなく、綺麗に回れていました。

  対する夫ピョートルもまた、ゆったりとした主役。メルクーリエフが踊ったのですが、彼も好調のようで、全体的に踊りが良かったです。特に跳躍が綺麗でした。優しそうな笑顔でバレリーナに近づこうとする様子は、いかにも人が良さそうでしたが、それでも本性はやっぱり女たらしでしょう。それなのに憎めない感じは、演じるメルクーリエフの雰囲気の効果もあったと思います。

  思いの外控えめな感じがしなくもなかったですが、舞台全体としては中々良かったと思います。最後の収穫祭で全員集合して手を振っているのを見ると、何だか和みます。余談ですが、この日は観光客の団体グループがたくさん観劇していて、あちらこちらからどっと笑いが起こっていました。確かに、気軽にバレエを楽しむならこの作品は面白いかもしらません。またショスタコーヴィッチの楽曲が用いられプロパガンダ色が強く、舞台芸術や衣装にもいかにもソ連っぽさが表れたこの作品はロシアならではのバレエでしょう。 

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