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タタール国立オペラ劇場 リハーサル見学 レッスン見学 「シュラレー」鑑賞

2008年3月13日


リハーサル見学




「シュラレー」のリハーサルを見学させていただきました。13日に予定されている公演で主役を踊る予定の2人によるリハーサルでした。女性がアレクサンドラ・スロジェーエワ、男性がアルチョム・ベーロフ、どちらもプリンシパル・ダンサーですが、女性の方はまだ若手で、13日がこの役デビューだそうで、細かい振り、演技・表情を指導してもらっていました。途中からしか見ていませんが、約40分の間に、一幕のパ・ド・ドゥと終盤のパ・ド・ドゥ、をレッスンしつつ、スロジェーエワの休憩中にベーロフが2幕の祝祭の場で披露するソロをおさらい、という感じです。

 実際このバレエ団のダンサーを観るのは初めてだったので、ドキドキだったのですが、まずビジュアル的にお2人ともキレイで一安心しました(笑)踊りを見てからは、実はこのリハーサルの時点では、スロジェーエワがプリンシパルにしては少し物足りないかな?と思っていたのですが、13日の公演では良くなっていたので、これからも伸びそうです。

 ベーロフは日本人が見ても上手の部類に入ると思います。元々自分が気づくとついつい女性だけ見てしまう癖があるので、サポート中心のパ・ド・ドゥを見ていた時は、筋力あるなあ~くらいの印象だったのですが(それでも減点なくサポートできる人はそれだけで上手です)、ソロを見てレベルの高さに意表をつかれました。
 男性的なパワフルさがあるダンサーですが、このむささが近年は貴重です(笑) 回転も跳躍もサポートもバランスよく上手で、難しいことをやってもキメがふらつかないダンサーというのはペテルブルクでもなかなかお目にかかれません。
 リハーサル全体を通して温かい雰囲気で、居心地が良かったです。教師とダンサーというよりも、先輩が後輩に自分の経験を伝える、という感じでした。ツアーが多いのですれているのかな?というここに来るまでの偏見も吹き飛んでしまいました。

終盤のパ・ト・ドゥより。




レッスン見学



写真:①バーレッスン風景
どうですか、このホールの広さ!天井が高いのでまた開放感があります。


 朝の10時からの団員全員のためのレッスンを見学させていただきました。ここの劇場はリハーサル室がとても大きくて、しかも明るく清潔な印象。

 10時からといっても、最初の10分はピアノ音楽に合わせて各自でウォーミングアップ。さすがにバレエ教室ではなくプロのバレエ団だけあって、レッスン・ウェアも色とりどりです。以下、同席したヤコヴレフ監督の解説を織り交ぜながらご報告します。

 レッスンの流れはどこでも一緒で、ここもまずはバーレッスンから。最初はプリエなどのゆったりとした負担の小さな動きからはじまり、次第にハードな動きになっていきます。レッスンを見れば見るほど、バレエってシステマティックに出来ているなあと実感します。バーレッスンだけで力量が見極められるほどの眼力はありませんが、それでも群を抜いてうまい人はさすがに目立ちます。ダンサーとしてのランクが近い人と付き合うことが多いのでしょうか、上手な人がごっそり集まる一角もあり、壮観です。

 団員数は約50名ということで、それほど大規模なカンパニーではないのですが、それでも一般的に言ってこれだけの人数が集まってレッスンをするのですから、バレエ教師も一人一人に注意することはほとんどありません。そこがバレエ学校との一番の違いでしょうか。自分を客観的に見れないと、それ以上上達できないというのも頷けます。


写真:②バーレッスン風景
一番奥の黄色いTシャツの男の子はアイドス・ザカン。ワガノワ・バレエ学校研修中の2005年、ワガノワ国際コンクールで3位入賞、3日前(3月9日)からここで働いているそうです。


 バーレッスンが40分ほど続いた後はセンターレッスンです。アンシェヌマンという、レッスン用に振付けられた15~30秒ほどの短い踊りを数グループに分かれて行っていきます。当たり前ですが、センターになると目立つダンサーはより明らかです。コールド・バレエ(群舞)もプリンシパルも一緒に踊るので、特に男性は力量の差が歴然です。

 そんな感じで個人差はありますが、平均点は非常に高い印象です。プロのロシアのバレエ団のレッスンを見た経験があまりないので比較は出来ませんが、跳躍はみんなきれいに180℃開脚していました。ボリショイ、マリインスキー、ミハイロフスキー(レニングラード国立バレエ)がロシア・バレエのデフォルトの日本のバレエファンの方には当たり前!と思われるでしょうが、実はそうでないバレエ団の方が多いので、感心してしまいました。

 タタール劇場とはいっても、カザンのバレエ学校出身者と外部出身者の団員比率は約半々ということで、外見を見る限り「ちょっとアジア系の多いヨーロッパ・ロシアのバレエ団」です。なお、カザン以外ではカザフスタン、ペルミ、モスクワ、ヴォロネジ、サンクト・ペテルブルクのバレエ学校出身者が多いとのことです。バレエ団監督が招聘会社と商談を成立させるツボを心得ているので、積極的に国際コンクールに出場させて実績を積ませている様子。私が見ただけでも3人の男性団員がコンクールの準備中でした。
写真:③センター
名前を聞き忘れてしまったのですが、一番右の女の子が、背中の使い方が美しくて素敵でした。一番左の白いTシャツの女の子はユリア・ポノマリョワ、骨格にも恵まれていて運動神経の良さそうな踊りが印象的でした。



舞台鑑賞~「シュラレー」

タタールの民話をバレエ化した作品なので、まさにご当地バレエです。ヤコブソン改訂版だそうですが、フォークロアの土っぽさと、彼のほんのりダサいところが上手く調和して、迫力がありました。衣装はともかく、装置はとても気に入ったし、フォークロア・ショーありで楽しめました。

 今や非常にマイナーな作品なので、大雑把なあらすじを。タタール版「白鳥の湖」というか羽衣伝説というか、鳥の姿をした悪魔・シュラレーからブィルティール(村の若者)はシュユンビケ(鳥の姿をした女の子)を救い出して嫁に迎えるけれど、彼女はシュラレーに奪われたままの翼が気になって上の空。そこへ再びシュラレーが現れてシュユンビケをさらってしまったので、ブィルティールは森へ追いかけていき、シュラレーを火にくべて撃退、翼も取り返す。シュユンビケを思いやって彼は翼を彼女に返すけれど、シュユンビケは愛するブィルティールと一緒に暮らすために翼を捨てる、というお話。バレエにしては男が誠実かつ強い、ということで非常にいい話です(笑)そして悪の親玉シュラレーが意外とお茶目さんでした。

 アレクサンドラ・スロジェーエワはテクニック的には並なんだろうと思います。この日がシュユンビケ/デビューだったそうで、前半は特に硬かったのですが、ラストのパ・ド・ドゥは良かったです。可憐な雰囲気がある、かわいらしいダンサーです。

 一方ベロフは地方劇場離れしたダンサーでした。力強い踊りだし、大技をやってもふらつかないのでアカデミックな印象。彼だけではなくて、「タタール」という響きそのままに、ここのバレエ団はビックリするくらい男性陣が充実しています。 シュラレー役のサヴジェーノフも巧みだったし、「火」を踊ったヌルラン・カネトフはナヨナヨ系かと思いきや(ロシアのバレエ雑誌で写真は何回か見ていたので)キレが良くてパワーもありました。

 男性陣に限って言えば、ミハイロフスキー劇場の上を行くかな?と思います。日本では無名のカンパニーなんですが、タタールスタン自体が豊かだし、ヨーロッパ・ツアー定期的に行っているので労働条件もトップクラスだそうで、いいダンサーを集めやすいんだそうです。



タタール国立劇場取材

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