このページでは、サンクト・ペテルブルクでバレエの歴史や批評を勉強している方からお寄せいただいた、
舞台公演のレビューをご紹介しております。下の表から各公演名をクリックするとその公演のレビューにジャンプします。

日にち 場所 公演名
2010年4月25日 マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル
ガラ・コンサート』)
2010年4月23日 マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル
NEW GENERATION

―スメカーロフ、ファスキ、リャン―
2010年4月21日 マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル
白鳥の湖
2010年4月20日 マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル
ジゼル
2010年4月15日 マリインスキー劇場 第10回国際バレエフェスティバル
アンナ・カレーニナ』(初演)
2010年3月10日 フィラルモーニヤ 大ホール
(ボリショイ・ザール)
第19回国際芸術フェスティバル
アヴァンギャルドから現在まで
2010年3月3日 サンクト・ペテルブルク・アカデミー・バレエ
[会場:エルミタージュ劇場]
バレエ・ミニアチュール
L・ヤコブソンとY・ペトゥホフ振付
2010年2月21日 マリインスキー劇場 シュラレー
2010年1月8日 マリインスキー劇場 ガリーナ・ウラーノワ生誕100周年記念コンサート
2009年12月19日 すべての劇場を愛する人々へ:劇場博物館のレポート
2009年11月20日 ロシア国立チャイコフスキー記念ペルミ劇場 ファデッタ』(ペルミ・バレエによる公演)
2009年11月19日 マリインスキー劇場 ジゼル
2009年11月17日 マリインスキー劇場 バレエソリストたちによるコンサート
2009年10月16日 サンクトペテルブルグ水道局」(博物館のレビューです。)
2009年9月29日 サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ
[会場:アレクサンドリンスキー劇場]
創立40周年記念公演『スパルタクス
2009年5月5日
2009年5月9日
マリインスキー劇場 ジェローム・ロビンスの『イン・ザ・ナイト』
5/5 『20世紀の舞踊の夕べ
5/9 『大祖国戦争戦勝64周年記念
2009年4月2日 サンクト・ペテルブルク国立児童音楽劇場
“ザゼルカーリエ”(鏡の向こうの世界)
〔会場:モスクワ音楽劇場〕
ゴールデン・マスク賞ノミネート公演
 『シンデレラ(チェネレントラ)
2009年3月14日
     〜22日
マリインスキー劇場 第9回マリインスキー国際バレエ・フェスティバル
.
3/15 『せむしの仔馬(イワンと仔馬)
3/16 『ディアナ・ヴィシニョーワ〜Beauty in Motion
3/18 『白鳥の湖』 
3/19 『ウリヤナ・ロパートキナ ガラ・コンサート
3/20 『バヤデルカ
3/22 『世界のバレエ・スターたちによるガラ・コンサート

第9回マリインスキー国際バレエ・フェスティバル
マリインスキー劇場 2009年3月14〜22日
  
 マリインスキー劇場でのバレエ・フェスティバルも第9回を迎えました。監督が現在のファチェーエフになってから初めてのフェスティバルです。去年(白鳥の湖をいろいろな主役で連日上演)とは方針が変わって、ヴァリエーションに富んだプログラムとなりました。マリインスキーの二大スター(ロパートキナ、ヴィシニョーワ)のコンサートも加わりました。「せむしの仔馬」にヴィシニョーワの「BEAUTY IN MOTION」と、クラシック、コンテンポラリー合わせて新作も目白押しです。今年も世界各国からのゲストと共に豪華な公演が繰り広げられました。
今年の演目: 3/14 せむしの仔馬(初演)
         3/15 〃
         3/16 ディアナ・ヴィシニョーワ BEAUTY IN MOTION
         3/17 ドン・キホーテ
         3/18 白鳥の湖
         3/19 ウリヤナ・ロパートキナ ガラ・コンサート
         3/20 バヤデルカ
         3/21 ジゼル
         3/22 ガラ・コンサート

筆者が観られた公演についてコメントしたいと思います。

3/15 せむしの仔馬 二幕八場
音楽:ロジオン・シチェドリン 脚本:マクシム・イサーエフ(ピョートル・エルショーフのおとぎ話を基に) 
振り付け:アレクセイ・ラトマンスキー 美術:マクシム・イサーエフ 照明:ダミール・イスマギロフ

登場人物
ばかのイワン:レオニード・サラファーノフ
お姫さま:アリーナ・ソーモワ
せむしの仔馬:グリゴリー・ポポフ
皇帝:ロマン・スクリプキン
寝殿侍従官:イスロム・バイムラードフ
雌馬:エカテリーナ・コンダウーロワ
雄馬:ユーリー・スミカーロフ、セルゲイ・ポポフ
ダニーロ:ソスラン・クラーエフ
ガブリーロ:マクシム・ジュージン
老人:アンドレイ・ヤーコブレフ


 ロシア人なら誰でも知っている物語の筋をほぼなぞりながら、明るいユーモアたっぷりの作品に仕上がりました。最初から最後まで文字通り息つく間もなく踊りの連続で、躍動感あふれる舞台であると共に、マリインスキー劇場のバレエのレベルの高さもうかがわせます。
 イサーエフによる舞台装置はミニマリズムの傾向があり、中央だけ明るく照らされた舞台の上には装置らしいものはなく、時々王様の四角い玉座やベッドが運ばれてくるばかり。背景には太陽になったり月になったりする巨大な黄色の円が描かれています。衣装は、奇想天外なアイディアで観客の目を楽しませてくれます。イワンのお父さんとお兄さんたちはマレーヴィチの民衆の絵を思い出させる服に身をまとい、皇帝の真っ赤な衣装の胴の部分には救世主寺の塔。ジプシーと海底の住人の胸には巨大な人間の顔の絵が頭とあごが逆さになってプリントされています。はっきりした色づかいで、全体にポップな印象です。
 ラトマンスキーは振付にあたって、お話を丁寧に踊りで表現することを念頭に置いたそうです。それぞれの登場人物がとても魅力的に描かれています。音楽から受ける印象も大事にしたようで、音楽と軽く会話している様な雰囲気です。ただあえて言うなら、ひとつひとつのエピソード、ひとりひとりの人物、ディテールに注意を向けすぎて、芯になって発展していくモチーフなどがなく、作品全体を通してのテーマが見えにくくなってしまったかもしれません。
 3月14日と15日では別々のキャストだったのですが、作品から受ける印象もかなり違ったものになったようです。ダンサーによって役作りを完全に変えてありました。聞いたところによると、特に皇帝は、14日(アンドレイ・イヴァノフ)はわがままでとても嫌な感じの偏屈な皇帝でしたが、15日は無邪気で甘やかされた小さい子どものようで、お話の最後に亡くなってしまうのがかわいそうになりました。いろんな出演者を見比べるのも劇場芸術の醍醐味の一つですね。
 
それぞれの出演者と役について。
ばかのイワン:レオニード・サラファーノフ
底ぬけに明るいおばかなイワン。踊りの技術の高さは周知のごとく、舞台一周の難度の高い跳躍を軽々とこなし観客席を沸かせました。
お姫さま:アリーナ・ソーモワ
コケティッシュでかわいらしい。皇帝をからかって遊んでいるだけかと思いきや、本当に自分のほしいものはちゃんと分かっている模様。真珠の指輪が入っている宝箱に指もふれずにそっぽを向くところや、王冠を差し出されても「私が一番!」と言わんばかりに天を指さすところなど、非常にあっけらかんとしていて、財産にも権力にも惑わされない「人間」の価値を妙に納得させられました。
せむしの仔馬:グリゴリー・ポポフ
軽妙洒脱なジェスチャーとしなやかな動きで、まさに子馬が舞台に躍り出てきたという感じ。芸達者なダンサーの魅力が活かされています。
皇帝:ロマン・スクリプキン
上にも書いたとおり、思わずあやしたくなってしまうような皇帝。煮えたぎる熱湯に入るときもいたって静かで(のたうちまわる15日の皇帝とは対照的に)、寝入ったのかな?あぁ死んじゃったのか、かわいそう・・・とため息が出るほど。
寝殿侍従官:イスロム・バイムラードフ
すぐれた踊り手であるとともに、性格俳優でもある彼の特長が存分に発揮されています。意地悪でずるがしこくてちょっとおっちょこちょい。高笑いしすぎて一瞬腰が抜けるなどユーモラスで、絶対に退屈させない人物のうちの一人です。
雌馬:エカテリーナ・コンダウーロワ と 雄馬:ユーリー・スミカーロフ、セルゲイ・ポポフ
ジョン・トラボルタ出演の映画「サタデーナイト・フィーバー」をどことなく思い出させる衣装で、振り付けも非常にスタイリッシュな馬たちです。

 フェスティバルの目玉である新作バレエ「せむしの仔馬」は、大変楽しめる作品になりました。特に若い世代の評判が良く、大きな成功でフェスティバルを開幕することができました。


3/16 ディアナ・ヴィシニョーワ BEAUTY IN MOTION
三人の現代の振付家たちがヴィシニョーワのために作った三つのバレエから構成されています。

月に憑かれたピエロ 一幕
音楽:アーノルド・ショーンベルグ 振り付け:アレクセイ・ラトマンスキー 振り付けアシスタント:エリヴィラ・タラーソワ 
美術・衣装:タチヤナ・チェルノボイ 衣装アシスタント:オリガ・アレクサンドロワ 指揮:ミハイル・タタルニコフ

出演者: ディアナ・ヴィシニョーワ イスロム・バイムラードフ ミハイル・ロブーヒン 
      アレクサンドル・セルゲーエフ

 ラトマンスキーとしては、出演者の個性を生かして振り付けるのが狙いだったそう。ただ音楽の扱いは従属的で、ソプラノ歌手がいて詩を歌っているにもかかわらず、その内容とは関係性が薄いように見えました。耳に聞こえてくる音にはよく合った振り付けでしたが、表面的な関係に終始したようです。筆者が勉強不足なだけかもしれませんが・・・。

F.L.O.W.(For Love of Women) 三部作
振り付け・監督:モーゼス・ペンドルトン 振り付けアシスタント:シンシヤ・クイン 
道具デザイン:マイケル・クリー 衣装デザイン:フィビー・カツィン

出演者:ディアナ・ヴィシニョーワ(後半二部はソロ)、エカテリーナ・イワンニコワ、ヤナ・セリナ


 全体に道具や照明効果に重きが置かれた作品でした。一部「白鳥の夢」は、暗い舞台に青く浮かび上がる三人の腕と脚が何かしらの図を描き、二部「鏡の目覚め」では巨大な鏡の上にビシニョーワが寝そべり、三部「水の花」では彼女の頭の上から無数の細い帯が垂れ、回転のたびにそれらが舞い上がるといった趣向でした。正直に言ってビシニョーワの特長が活かせるものとしてはかろうじて二部を挙げることができるくらいですが、それも彼女の体つきは特殊なので好き嫌いは分かれるところではないかと思います。

Three point turn 一幕
音楽:ダヴィッド・ローゼンブラット 振り付け:ドゥワイト・ロデン 
振り付けアシスタント:クリスティーナ・ジョンソン、クリフォルド・ウィリヤムス  衣装:イザベル・ルビオ 照明:トニー・マルクス

出演者:ディアナ・ヴィシニョーワ、イリーナ・ゴルプ、ヤナ・セリナ、ミハイル・ロブーヒン、アントン・ピモノフ、アレクサンドル・セルゲーエフ


三組の男女が繰り広げる、簡単にはいかない人間関係の物語です。永遠のテーマですね。


3/18 白鳥の湖 三幕四場
脚本:ウラジーミル・ベギチェフ、ワシリー・ゲリツェル 振り付け:マリウス・プティパ、レフ・イワノフ コンスタンチン・セルゲーエフ編 舞台美術:シモン・ビルサラゼ 衣装:ガリーナ・ソロビヨーワ 指揮:ミハイル・アグレスト
 出演者:オデット/ オディール:ビクトリヤ・テリョーシキナ
      ジークフリード王子:ミハイル・カニースキン(ベルリン国立オペラ劇場)


「テリョーシキナの日だ!」というのが最初の感想でした。カニースキンは正統派という感じで、個人的には好感は持てるのですが、テリョーシキナの迫力のあるお姫様と、凄いような黒鳥の前では少しかすんでしまうようでした。


3/19 ウリヤナ・ロパートキナ ガラ・コンサート
Tダイヤモンド 
音楽:ピョートルチャイコフスキー(交響曲第三番ニ長調「ポーランド」 1875 第二、三、四、五部)
振付家・演出:カリン・フォン・アロルジンゲン、サラ・レランド、エリス・ボーン、ション・ラベリ 美術:ピーター・ハービー 
衣装:カリンスカ 衣装顧問:ホリー・ハインス 照明コンセプト:ロナルド・ベイツ 照明:ペリー・シルベイ

出演:ウリヤナ・ロパートキナ、ダニーラ・コルスンツェフ


近年のライモンダ・デビューのときにはさすがに古典はもうきついのではないかとささやかれていたロパートキナでしたが、この日のダイヤモンドではそんなうわさが一瞬でもたったとは信じられないほど素晴らしい踊りでした。指先まで計算された美しさ、完璧なポーズ、見事なまでの音楽性で観客を舞踊の詩の世界へと誘いました。

Uディベルティスメント
五つのそれぞれ雰囲気の違う作品が上演され、選択に趣味の良さが光りました。
@ 別れ
音楽:ジョン・ポウエル 振り付け:ユーリー・スミカーロフ
出演:エブゲーニヤ・オブラスツォーワ、ウラジーミル・シクリャーロフ


大人な雰囲気のタンゴ風デュエット。対立のあげくに別れてしまう。ふたりともに普段の明るい役とはまったく別の顔を演じました。

A バレエ「日本の夢」から「鶴」
音楽:レナード衛藤、山口幹文、A・トーシャ 振り付け:アレクセイ・ラトマンスキー
出演:ドミトリー・グダノフ(モスクワ・ボリショイ劇場)


ちょと目先を変えて。不思議なたたずまいで観客を異次元の世界に引き込みました。

B 秋色のデュエット
音楽:アルボ・ピャルタ 振り付け:エブゲニー・パンフィーロフ
出演:エリヴィラ・タラーソワ、アンドレイ・バターロフ

困難ながらも美しいリフトの連続が秀逸な作品。アクロバティックにはけっしてならず、詩情さえ感じさせました。

C 古い写真
音楽:ドミトリー・ショスタコーヴィチ 振り付け:ドミトリー・ブリャンツェフ
出演:イリーナ・ゴルプ、イワン・シトニコフ


ソ連時代の背の小さな女の子と背の大きい男の子の凸凹コンビのコミカルなかけあいが楽しい。レトロな雰囲気も良し。

D 矛盾
音楽:ヤン・ティルセン 振り付け:フランチェスコ・ヴェントリリヤ
出演:ウリヤナ・ロパートキナ、イワン・コズロフ


理屈では割り切れない激しい感情にゆさぶられる男と女の物語。成熟した大人の二人だからこそできる、観客を納得させる迫真の演技でした。

Vシェヘラザード 一幕舞踊ドラマ
音楽:ニコライ・リムスキー=コルサコフ 振り付け:ミハイル・フォーキン 
脚本:レフ・バクスト、ミハイル・フォーキン(アラブの物語をモチーフに) 復元:イザベル・フォーキナ、アンドリス・リエパ 
舞台装飾と衣裳:アンナ・ニェージュナヤ、アントン・ニェージュヌイ(レフ・バクストのスケッチを基に)

出演   シェヘラザード:ウリヤナ・ロパートキナ
      金の奴隷:ドミトリー・グダノフ(モスクワ・ボリショイ劇場)


 ロパートキナのシェヘラザードは、シャフリアル(サルタン)の前で優等生過ぎて、その後、自分の心の求めるままに禁忌を犯して奴隷を解き放つという情熱的な行動との関連性がつかみにくいかもしれません。全体を通してロパートキナは踊りのスタイルを重視し、それがともすると禁欲的な様相にさえつながりかねません。主人の不在に、束の間の快楽に身をゆだねるというのではなく、ハーレムに君臨する自分の美しさを十二分に感じているといった様子でした。グダノフは跳躍や回転を慎重に完璧にこなしてはいましたが、踊りのスタイルにはあまり執着はないようでした。さらには女王のように君臨するロパートキナを前に、「金の」奴隷ではなく、ただの奴隷になり下がった感がなきにしもあらず。すばらしい俳優でもあるグダノフからはより良い演技を期待していたので残念でした。


3/20 バヤデルカ 三幕五場
脚本:マリウス・プティパ、セルゲイ・フデコフ  振り付け:マリウス・プティパ(1877)編:ウラジーミル・パノマリョフ、
    ヴァフタング・チャブキアーニ(1941) (コンスタンチン・セルゲーエフとニコライ・ズプコフスキー振り付け作品を含む) 
美術・監督:ミハイル・シシリャンニコフ(アドリフ・クヴァッパ、コンスタンチン・イヴァノフ、ピョートル・ランビン、オレスタ・アレグリの       1900年の公演時の舞台装置をモチーフに)証明デザイン:ミハイル・シシリャンニコフ 
衣装:エヴゲニー・パノマリョフ 指揮:ミハイル・アグレスト 

出演  ニキヤ:ポリーナ・セミオノワ(ベルリン国立オペラ劇場)
      ソロル:イーゴリ・ゼレンスキー
      ガムザッティ:アナスタシヤ・マトビエンコ


セミオノワ圧巻でした。自分の技術の高さを存分に見せつけました。また普段は表面に出さないながらも実は情熱的な一面をもつ主人公の役が、かすかに影のある情熱をもったセミョーノワにぴったりでした。ゼレンスキーは去年よりもむしろ跳躍力を増していました。ミハイロフスキー劇場から移籍してきたばかりのマトビエンコは、慎重にすべての動きをそつなくこなしてはいましたが、マリインスキーのソリストとしての迫力、威厳、華やかさはまだ備わっていないようでした。もしかしたらただ単にミハイロフスキー劇場の小さい舞台に慣れて自分を制御してしまったせいかもしれません。いずれにせよマリインスキーのソリストとしての成熟が待たれます。


3/22 世界のバレエ・スターたちによるガラ・コンサート
指揮:アレクサンドル・ノヴィコフ(第一部)、ミハイル・アグレスト(第二、三部)

第一部 フー・ケアーズ?
音楽:ジョージ・ガーシュイン オーケストレーション:ハーシー・ケイ 振り付け:ジョージ・バランシン 
照明デザイナー:イーゴリ・ヤクシェフ
出演:イーゴリ・ゼレンスキー、アンナ・ジャーロヴァ、ナタリア・エルショーワ、エレーナ・ルィトキナ 
    他 ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場ダンサー


 ダンサーたちが楽しんで踊っているのがよくわかりました。明るく快活でフレッシュな印象です。幕開けにもってこいのテンポのいい音楽と踊りで客席を沸かせました。最初に舞台に登場した瞬間のゼレンスキーがとてもかっこよかったです。パートナーの女性をたてながらも自分も誇り高く気品のあるたたずまい。そのあとのアダジオは、振り付けからいうと若いふたりの間に淡い恋の感情が生まれる・・・といった感じのはずなんですが、この日の二人はかなり大人な愛を演じていました。もう長年付き合っているような。他のソリスト二人も大健闘でした。全体として、時々技術的に心もとない瞬間がないわけではないですが、溌剌とした気持ちのいい舞台でした。


第二部 ディベルティスメント
@バレエ「マノン」よりアダジオ
音楽:ジュール・マスネー 振り付け:ケネス・マクミラン
出演:ヴィクトリヤ・テリョーシキナ、マルセロ・ゴメス(アメリカン・バレエ・シアター)


二人の感情表現の温度差が激しかったです。マルセロ・ゴメスは全身でアタックするような情熱的なデ・グリューなのに、一方のテリョーシキナは冷たい態度。彼女を支えて移動するさまが、人形を引きずっているようにしか見えないこともありました。

Aバレエ「パリの炎」よりパ・ドゥ・ドゥ
音楽:ボリス・アサーフィエフ 振り付け:ワシリー・ワイノーネン
出演:イリーナ・ゴルプ、ミハイル・ロブーヒン


最近ソロのパートによく名前が出るようになったゴルプはういういしさ満点で愛らしかったです。ただ、特に技術が高いわけではないのでもっと別のものを踊らせたほうが良かったのではないかという気もします。本来、このパ・ドゥ・ドゥは、技術的にドン・キホーテと同じくらい巧妙さとはつらつさ、歯切れのよさが求められます。ゴルプはこの役には少し甘い感じがしました。ロブーヒンは高い跳躍でお客を驚かせていましたが、役を演じるうえで、相手とうまくバランスがとれなかったせいか、なんとなしにさえない印象でした。

BImpromptu
音楽:フランツ・シューベルト 振り付け:デレク・ディーン
出演:アグネス・オークス、トーマス・エデュール(イングリッシュ・ナショナル・バレエ)
ピアノ演奏:リディヤ・ズヴェリョワ

 
秀作です。個人的にはこの日、一番気に入った作品でした。音楽からあふれて流れ出てきたようなよどみない振り付け。演じる二人もこの音楽と振り付けから香る詩情をよく理解し、感じているのがわかりました。全体を通して、男性は女性を支える役にまわり、言ってみれば主役は女性なのですが、二人の息が技術的な意味でぴったりで、さらには演じるという点で、同じ世界観を共有しているのがありありとみて取れます。奇跡的なペアだと思いました。

Cル・パルク
音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 振り付け:アンジェラン・プレルジョカージュ
出演:ディアナ・ヴィシニョーワ、ウラジーミル・マラーホフ(ベルリン国立バレエ団)
ピアノ演奏:リュドミラ・スヴェーシニコワ


理想的なペアですね。夜の寝室の場面でしたが、なまなましくなりすぎず、でも熱い感情がたぎっていて、すばらしかったです。全幕で観たくなりました。

Dタランテラ
音楽:ルイ・モロー・ゴットシャルク 振り付け:ジョージ・バランシン
出演:ナジェジダ・ゴンチャル、レオニード・サラファーノフ
ピアノ演奏:リュドミラ・スヴェーシニコワ


 二人とも能力の高いダンサーですが、ミスキャストではないかと…。ゴンチャルはもっと柔らかい踊りに向いているし、サラファーノフの跳躍は空中を飛行するような息の長い性質のものです。バランシンのタランテラはそれらとはまったく反対の種類で、疾風が吹き廻るような情熱的な、ほとんど猛烈な踊りでなければなりません。最初に振り付けられたダンサーたちは、信じがたいほどの速さで軽妙なウィットに富んだ動きを次々と繰り出しました。サラファーノフとゴンチャルの下ではオーケストラもかなりゆっくり演奏し、振り付けの妙が失われていました。

E瀕死の白鳥
音楽:カミーユ・サン=サーンス 振り付け:ミハイル・フォーキン
出演:イルマ・ニオラーゼ


 難しい作品だということを改めて感じました。本当に人によって解釈がいろいろありますね。個人的には、白鳥ではあるのだけれど、動物にはなりさがらない、ほとんど精霊的な透き通った存在感の「瀕死の白鳥」が好きなので、ニオラーゼの実際の白鳥を見るような踊りはあまり好きになれませんでした。

Fグラン・パ・ドゥ・ドゥ
音楽:ジョアキーノ・ロッシーニ 振り付け:クリスティアン・シュプック
出演:ウリヤナ・ロパートキナ、イーゴリ・コルプ


 会場全体を笑いの渦に巻き込みました。クラシックなコスチュームに身を包み、まじめに二人で出てきたかと思いきや、ロパートキナの手にはなぜかバラ色のハンドバッグ、顔には黒縁めがね。クラシックバレエの楽しいパロディーです。しじゅうハンドバッグを気にする女と、それを制止しながらデュエットを続けようとやっきになる男。女の足をつかんで床をひきずったり(それでも女はポーズをとり続ける)、フェッテをお客さんに背中向けて終了したりと、観客のほうは笑いっぱなしです。ロパートキナがまたそれを心底うれしそうに演じているのがとてもチャーミングでした。

Gバレエ「ドン・キホーテ」からパ・ドゥ・ドゥ
音楽:リュドビグ・ミンクス 振り付け:アレクサンドル・ゴールスキー
出演:エフゲニヤ・オブラスツォーワ、アンヘル・コレーラ

 
 アンヘル・コレーラはいつもどおりあちらこちらのポーズをしっかりアピールしてお客さんに愛嬌を振りまいていました。ただ、マリインスキーの傾斜した床に合わせて調整しきれていなかったせいか、回転の軸は見事に斜めに倒れ、それでもなんとか持ちこたえていたのですが、最後のピルエットでは完全にずれて両足をついてしまいました。それでも笑顔満点で、「さすが陽気なお兄ちゃん!そうこなくっちゃ!」となんだか好感を抱かせてしまうのは、彼個人の人間の魅力がなせる技でしょうか。普段はお客を興奮させるほど技術も完璧なのに、今日は残念でした。オブラスツォーワも本調子ではなかったようです。二人で練習できた期間がおそらく短かったのか、あまり調和のとれていないペアでした。


第三部 テーマとヴァリエーション
音楽:ピョートル・チャイコフスキー 振り付け:ジョージ・バランシン 演出:フランシア・ラッセル 
衣装:ガリーナ・ソロビヨーワ 照明デザイン:ガリーナ・ルカセヴィチ
出演:アリーナ・ソーモワ、ウラジーミル・シクリャーロフ


 あらためてバランシンの振付の音楽性の高さに感激させられました。ダンサーたちのグループの動きを見ていると、オーケストラ譜が踊りになったようなそんな錯覚さえ起こさせます。けれども決して音楽がもつ内容の豊かさは失わず、天才的な振り付けです。ダンサーたちの今日の踊りかたにはあまり満足できませんでした。とくに気になったのは主役の二人の腕の動きです。クラシックの動きの決まりを完全に守ってこそ、様式美が強調される踊りなのに、二人の腕はかなり自由な線を描いていたので、作品全体の調和が崩されてしまいました。

 この日のガラ・コンサートはミスキャストではないかと思える瞬間が目立つプログラムでした。普段とは違う魅力を引き出そうという狙いがもしかしたらあったのかもしれません。ダンサーたちも意欲的に取り組んではいたようですが、なかなか成功した例はありませんでした。それとは対照的に、長年組んでいるペアの踊りの質の高さに感動する場面は多かったです。
作品選びは成功したといえるでしょう。「フーケ・アーズ?」でスタイリッシュにテンポ良く始まって、二部は「瀕死の白鳥」、「ドン・キホーテ」以外マリンスキーのレパートリーにはなかったり、ふだんはほとんど上演されない演目がならびました。三部は王道の「テーマとヴァリエーション」で締めくくりと、バランスのいい構成だったと思います。バランシン作品が多いことに気付きます。若い観客層が多いとはいえないマリインスキー劇場では、現代ものはバランシンまでがすんなり受け入れられる限度なのかもしれません。とはいっても、新しい作品を上演しようという試みはさかんに行われています。今回の「せむしの仔馬」はそのいい例です。古典も大事にしながら、これからもいい作品が次々に生まれていくことを一観客として切に願います。

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サンクト・ペテルブルグ国立児童音楽劇場 「ザゼルカーリエ」[鏡の向うの世界]
2009年4月2日『シンデレラ(チェネレントラ)』
  
 児童劇場と名前がついている劇場ですが、大人向けの作品も上演しています。ロシアの作曲家だけでなく、ヨーロッパやアメリカのクラシック・オペラなど幅広いレパートリーを持っています。この作品は、2009年3月終わりから4月の頭にかけて行われたザラターヤ・マスカ[ゴールデン・マスク](ロシア国内の劇場で上演された新作で優れたものに賞を授与する)で、作品賞と指揮者賞を獲得しました(今回はそのノミネート公演だったため、公演会場自体はモスクワ音楽劇場でした)。

音楽:ジョアキーノ・ロッシーニ
脚本:フェレッティ
レチタティーボ部分のロシア語テクスト:A・ペトロフ、P・ブーベリニコフ
音楽監督・指揮:P・ブーベリニコフ
監督・演出:A・ペトロフ
美術:E・オルローワ
舞踊振り付け:I・ノービク


大人向けのカテゴリーに入っていますが、子供にも見せられると思います。
ロッシーニのこのオペラは、シャルル・ペローのお話をもとにしながら大胆に改作されています。一番大きな違いと言えば王子やその従者が衣服を取り換えてお互いになりすますエピソード、継母ではなく継父のところなどが挙げられます。ザゼルカーリエの演出では、アリア部分はイタリア語上演ですが字幕はなく、ロシア人には歌詞がわからないこと前提です。レチタティーボ部分だけがロシア語です。それでも次から次へと抱腹絶倒のお芝居(アリアの間はジェスチャーで)が続き、飽きる暇をまったく与えません。アリアで延々と身代わりの秘密を明かす従者とその前で目を白黒させている継父。歌い終わった後で「イタリア語じゃわからないか。」とのたまうロシア語は傑作です。
 音楽で名高いロシアの劇場だけあって、“児童”劇場ながらも出演者の歌唱力も折り紙つきです。国際コンクール受賞者が多く所属しています。芸達者(演劇的お芝居の点でも歌の点でも)な歌手に、ウィットに富んだ舞台衣装・装置、オーケストラも力を合わせて、上質のコメディーに仕上がりました。

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ジェローム・ロビンスの『イン・ザ・ナイト』
2009年5月5日・9日 マリインスキー劇場
  
 五月の上旬に、マリインスキー劇場でジェローム・ロビンスの「イン・ザ・ナイト」が二度(5月5日、9日 ダブルキャスト)上演されました。この作品は久々の舞台登場。ロビンス自身が振り写しにサンクトペテルブルグに来た1992年からゆうに10年以上を経ての再演です。当時のピアノ奏者(リュドミラ・スヴェーシニコワ)が今回も続けて演奏を行いました。彼女いわく、ロビンスは非常に音楽に厳しい芸術家で、ダンサーだけでなく、ピアノ奏者とも個別にリハーサルを重ね、彼が滞在した期間はそれこそ早朝から深夜まで毎日リハーサルだったそうです。「そんなんじゃ踊らせない!!!」が初演前日の彼の言葉だとか。苛烈さがうかがい知れますね。
 また、5月9日には「イン・ザ・ナイト」と同時に「レニングラード・シンフォニー(交響曲第七番 ショスタコーヴィチ)」が上演されました。5月9日はロシアがファシストに勝利したという記念の日で、毎年国中でパレードや航空ショーが行われるなど盛大に祝います。バレエ「レニングラード・シンフォニー」は第二次世界大戦がテーマになっています。年に二度くらいしかお目にかかれないレアな作品でもあります。今シーズンは6月22日(大祖国戦争開戦日)にもう一度上演される予定です。


2009年5月5日 「20世紀の舞踊の夕べ」
「セレナード」・「イン・ザ・ナイト」・「テーマとヴァリエーション」
指揮者:P・ブーベリニコフ

「セレナード」
音楽:P・チャイコフスキー (弦楽セレナード 作品48番 1880年)
振り付け:J・バランシン
バレエマスター・演出家:F・ラッセル、K・F・アロリジンゲン
衣装:カリンスカ  照明コンセプト:R・ベイツ  照明デザイナー:V・ルカセヴィチ

出演:E・コンダウーロワ、D・コルスンツェフ、I・ゴルプ、Y・チェレシュケヴィチ、A・イェルマコフ 他。


 チャイコフスキーの弦楽セレナードですが3楽章と4楽章の位置が入れ替わっています。この作品は、もとをたどればバランシンがアメリカのバレエ学校で与えたレッスンが出発点になっています。中には遅刻してきた子や転んで泣きだした子のエピゾードも残っています。けれども、出来上がった作品は統一性を持って詩的形象を獲得しました。人によって解釈は様々で、ある人はコールドバレエの整然とした列の描く美しさをペテルブルグの街になぞらえて「バランシンのサンクトペテルブルグへの憧憬があらわれている」といいますし、また別の人は「これは死についての思索だ」といいます。個人的には後者の意見に近いかなと思います。最後、バレリーナが立ったままのの姿勢でリフトされて、その後をほかのダンサーたちが列を作って続いていくところなどが天国へ向かう道、言ってしまえばお葬式のかたちに見えなくもないかなと。
 今回の出演者の中ではイリーナ・ゴルプが活き活きとした演技で注目を集めていました。

「イン・ザ・ナイト」
音楽:F・ショパン  振り付け:J・ロビンス
バレエマスター・演出家:B・ヒュース
衣装デザイナー:A・ダウエル  照明デザイナー:J・ティプトン  照明復元:N・ピルス  ピアノ奏者:L・スヴェーシニコワ

出演:A・マトヴィエンコ、D・マトヴィエンコ
   A・ソーモワ、S・ポポフ
   U・ロパートキナ、I・コズロフ


 漆黒の闇に暖かなオレンジ色の星が光る夜空を背景に、夜会服に身を包んだ三組の恋人たちのロマンスが語られます。
[ノクターン27−1] 振り付けでは若いカップルの胸の高まり、昂揚感が繊細に表現されます。マトヴィエンコ夫妻は少し音楽に乗れていないところがあり、ロビンスの振付を十分に活かしきれなかったのではないかと思います。ちょうど音楽が高まるところで、目がくらむ陶酔感、はやる息遣いを表すようなリフトがあるのですが、音楽とずれてしまったことで効果が半減してしまいました。
[ノクターン55−1] 踊りにマズルカのモチーフが取り入れられています。誇り高く洗練された気品のあるポーランドの男女を、ソーモワとポポフが優雅に演じました。ソーモワのなんとなくひと癖ありそうなところがうまく働いたようです。ポポフは持前の上品さで踊りに花をそえました。
[ノクターン55−2] ロパートキナ、コズロフは劇的・情熱的演技で観客を圧倒しました。高すぎるプライドに素直になれずつい反発してしまう女性と、彼女を愛しているけれども付き合い切れずに愛想を尽かしそうになる男性。大人の二人の心に巻き起こる嵐を表現力豊かに踊りました。
[ノクターン9−2] 三組が一堂に集まります。それぞれにドラマを抱えながらワルツを踊ります。全体の和を乱さないように表面は平静を装いながらも、内面ではそれぞれの愛の物語が続いているのが手に取るようにわかります。一定の緊張感を保ちながらフィナーレへと向かいます。

「テーマとヴァリエーション」
音楽:P・チャイコフスキー(組曲第三番 四楽章)  振り付け:J・バランシン
バレエマスター・演出家:F・ラッセル
指導:E・ボーン
衣装:G・ソロヴィヨーワ  照明デザイナー:V・ルカセヴィチ

出演:V・テリョーシキナ、E・イワンチェンコ


 テリョーシキナはいつもどおり、安定しているながらも技巧的な、輝きのある踊りで観客を感心させましたが、イワンチェンコが少し迫力負けしている感がありました。クラシックバレエの美を高らかに謳いあげる作品だと思うので(バランシンですからもちろん完全な古典というわけではありませんが)、その主役の二人には完璧な美と調和を求めたいですね。 

2009年5月9日 「大祖国戦争戦勝64周年記念」
「イン・ザ・ナイト」、「レニングラード・シンフォニー」

指揮者:B・グルジン

「イン・ザ・ナイト」
音楽:F・ショパン  振り付け:J・ロビンス
バレエマスター・演出家:B・ヒュース
衣装デザイナー:A・ダウエル  照明デザイナー:J・ティプトン  照明復元:N・ピルス  ピアノ奏者:L・スヴェーシニコワ

出演:E・オブラスツォーワ、V・シクリャーロフ
   E・コンダウーロワ、E・イワンチェンコ
   V・テリョーシキナ、D・コルスンツェフ

[ノクターン27−1] 見違えるほどに大人の落ち着きと深みと余裕をそなえるようになったオブラスツォーワ。瞑想的で情緒あふれる踊りでロビンスの振付にあるべき色彩を与えました。シクリャーロフとの息も合い、調和に満ちたデュエットになりました。
 他二組についてはあまり肯定的な文章が書けそうにないです。コンダウーロワは大味なところが気になりますし、テリョーシキナはすべてやるべきことをこなしていながらもドラマ性に欠けます。勝手に結論付けますが、今のマリインスキー劇場の「イン・ザ・ナイト」理想の配役は次のようになると思います。
E・オブラスツォーワ、V・シクリャーロフ
A・ソーモワ、S・ポポフ
U・ロパートキナ、I・コズロフ
 公演前の広告にはL・サラファーノフも挙がっていました。今後彼が出演する可能性もあるかもしれません。どの配役で観られるかお楽しみですね。

「レニングラード・シンフォニー」
音楽:D・ショスタコーヴィチ(交響曲第七番 一楽章)  振り付け:I・ベーリスキー  
デザイナー:V・オークネフ(M・ゴードンの舞台装飾をもとに)
衣装デザイナー:T・ノギノワ
照明デザイナー:V・ルカセヴィチ

出演:女の子‐D・パヴレンコ
   若者‐M・ロブーヒン
   裏切り者‐M・ベルジチェフスキー


 踊りが始まる前の幕に写される、ショスタコーヴィチ手書きの楽譜が印象的です。
[穏やかな幸せ] 若い人々の群像。青い空に浮かぶ旧海軍省尖塔のシルエットが、レニングラードが舞台であることを知らせます。
[襲      来] 最初はかすかに、あとからその音量を最大限に鳴らすスネア・ドラムの絶え間ない脅迫的な響きが、ファシストと思しき敵 軍団襲来を伴います。赤く燃える空の下で逃げ惑う女の子たち。青年たちは数的に圧倒的な敵を前に次々と倒れていきます。滴る血を腕から拭い落とす仕草や、お腹のあたりを手でこねくり回す敵のジェスチャーが、残忍で犠牲を求めることに限りなく貪欲な非人間的なイメージを目に焼き付けます。
  一度は倒れながらも絶対に負けない魂の象徴として再び若者たちが現れます。彼らの美しい跳躍が雄々しい姿を強調します。
[レ ク イ エ ム ] あとに残された女の子たちの悲しみが、ときに生きたレリーフの形を取って表現されます。最後の瞬間にヒロインが観客に問いかけるように突き出す両手が、戦争の悲劇を雄弁に語ります。

 現在上演するには難しい作品だと思いました。初演された当時は、まさに戦争を経験したダンサーたち(A・シゾーワ、G・コムレヴァ、Y・ソロヴィヨフ、O・ソコロフ)が踊り、そのビデオを見るだけでも迫力が伝わってきます。一つ一つのジェスチャーが明白で、重い意味が込められているのがわかります。特に最後のヒロインのジェスチャーはこころに訴えかけるものがありました。残念ながら、戦争を知らない今の世代のダンサーが踊っても表面的になりがちです。去年、久しぶりに上演された時はコムレヴァが指導にあたり、ダンサーたちも誠実に課題に取り組んだ跡が見られましたが、今回は時間がたってしまったこともおそらく災いして、去年ほどの精神的統一感は感じられませんでした。

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(背景画像はMy new history様よりお借りしました。どうもありがとうございます。)